アナログ、ミックスシグナル設計の黒魔術に光をあてる第4部: ミックスシグナル検証 (続き)

この記事では、具体的なデザインへのこれらの基本的な手法の適用について考察します。ここで紹介する例は、パワー・マネージメントICに組み込まれているリチウムイオン・バッテリー・チャージャーです。携帯電話やタブレットなど製品のロング・バッテリー・ライフを実現するには、効率的なバッテリー制御が非常に大切です。近年の携帯製品において、パワー・マネージメントICは、バッテリー制御をはじめ多くの機能が求められます。もしバッテリーを適切に管理しないようなことがあれば、例えば充電中に過度のストレスをかけてしまい、結果として発火をまねく場合もあります。

図1. は、リチウムイオン・バッテリーの充電特性を表したグラフです。リチウムイオン・バッテリーの充電では、定電流充電モードと定電圧充電モードの2つの動作モードがあります。完全に放電したバッテリーは、~ の開放電圧(Vbattery)を持ちます。完全に充電されたバッテリーの開放電圧は、バッテリー・ケミストリに応じて、 から の値をとります。バッテリーが放電されている場合には、Vbatteryは 未満の値をとります。この領域では、バッテリーは、 など固定の電流値による、定電流充電モードで充電が行われます。バッテリー電圧が に上がると、充電は定電圧充電モードに切り替わります。電圧は の一定の電圧が維持され、電流は定電流充電モードの~ になるまで一定の割合で減少されます。

図1: リチウムイオン・バッテリーの充電曲線図1: リチウムイオン・バッテリーの充電曲線画像をクリックすると拡大表示されます

バッテリーの過充電は課題の一つです。特にリチウムイオン・バッテリーでは、過充電することで発熱を生じ、さらに爆発する可能性もあります。そのため、適切な充電制御は、バッテリー寿命を最大化するだけでなく、安全に運用する上でも重要になります。以下の図2.は、バッテリー充電の動作を表した状態遷移図です。これまで述べてきているように、回路動作で必要となるのは、動作などデジタル側の項目と、パラメータを変えたときのパフォーマンスといった、アナログ側で要望するものを混在させたものになります。

図2: リチウムイオン・バッテリーの状態図図2: リチウムイオン・バッテリーの状態図画像をクリックすると拡大表示されます

この状態遷移図には、安全な充電が行われていることを確認するための多くのチェックが含まれています。例えば、バッテリーが正しい極性に接続されているか、バッテリーが充電のための適切な温度にあるか、バッテリーが急激に温度上昇していないか、充電に時間がかかりすぎていないかといったところですが、それ以外には、充電中に過剰なストレスがバッテリーにかかっていないことを検出するためのチェック等があります。

次に、バッテリー充電の検証に必要な内容について紹介します。リチウムイオン・バッテリーの充電では、バッテリー充電中の温度上昇を詳細に監視することなど>1%の高度のアナログ精度が求められます。この内容をシミュレーションすることに手間がかかることは明白です。 で動作するスイッチング・レギュレータで充電に1時間を要する場合、バッテリー充電の正確な動作を検証するには36億のクロック・サイクルが必要となります。これは、SPICEシミュレーションでは、非常に長い時間です。さらに、ノミナル・コーナーでの正確な動作を検証するだけでは十分とはいえません。デザインを、多くのコーナーにわたりシミュレーションすることが求められます。 から コーナーをシミュレーションすると仮定すると、シミュレーションには、人間の寿命よりも長い時間が必要となることが想像されます。このような場合に、機能記述を用いることで、シミュレーション時間を大幅に改善することが見込めます。検証を実現するために、2段階のアプローチが考えられます。機能記述モデルで全てのコーナーをシミュレーションし、問題となりそうなコーナーを探索し、その後に、トランジスタ・レベルにして、それらのコーナーをシミュレーションすることです。パワー・マネージメント回路検証を行った場合に、機能記述による複数コーナー・シミュレーションが、トランジスタ・レベルの1つのコーナー・シミュレーションと同等の時間で実行できたことが報告されています。結果として、機能記述シミュレーションのコーナー・シミュレーションからワースト・ケース条件を割り出し、トランジスタ・レベルでは、ワースト・ケース条件のみをシミュレーションするということが可能になります。これにより、より少ない時間で検証のより良い網羅率を達成することが可能と考えられます。次に、図3.に与えられているバッテリー充電のテストベンチを例に考察したいと思います。

図3:バッテリー・チャージャーのテストベンチ図3:バッテリー・チャージャーのテストベンチ画像をクリックすると拡大表示されます

この例では、定電流領域でバッテリーが の定電流で充電される、線形チャージャーが用いられています。定電流充電モードには2つのアサーションが与えられており、充電時の電流が であることのモニター、充電時間が1時間という期限内に充電されることのチェックが行われています。他のアサーションとしては、充電時のバッテリーの温度上昇のチェックや適切な時間で定電流動作から定電圧動作に切り替わることのチェックなどが含まれます。シミュレーション結果は、次の図4.に示されています。完全な放電状態から充電状態まで、3時間未満の時間で行われます。アサーションを確認すると、0はパスを表し、1はフェイルを表します。Vbatteryが より小さく、チャージャーが、バッテリーに過剰なストレスをかけていないことがわかります。充電時の電流は、 の範囲に入っていますが、充電が制限時間を超えてしまっています。充電が制限時間を超えていることからチャージャーにはさらなる設計の詰めが必要です。

図4:バッテリーの充電結果図4:バッテリーの充電結果画像をクリックすると拡大表示されます

バッテリー・チャージャーの例では、波形の目視をする代わりにアサーションを使用しました。アサーションは、回路動作が正しく動作している事を確認するために回路動作をモニターし、結果としてパス/フェイルを出力します。結果として、デバッグや検証工程を、波形の目視に比べて簡単にすることができます。さらに、最新のADE XLから回路動作のパス/フェイルの定義が可能で、検証の自動化を可能にします。これまでは、パス/フェイルの判定は、手作業で波形を綿密に調査することで確認することができました。アサーションの適用により、設計者が検証手法や生産性を改善することに貢献できます。

この記事では、バッテリー・チャージャーを例として、アナログ回路における先進的な検証手法の適用について考察しました。以上で論じたように、バッテリーをドライブする回路はアナログですが、一方、その制御はデジタルとなっています。デザインが適切に動作することを検証するには、回路のアナログ量を観測できるデジタル的な手法を用いることが、効果的と言えます。今回の例は、検証問題のミックスシグナル的な本質を端的に表したものとなっています。

システムソリューション部
Art Schaldenbrand

翻訳・監修: フィールドエンジニアリング&サービス本部
菅谷 英彦

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