シリコンバレー便り:シリコンバレーで働いてみて

「久しぶり!」「元気でした?」「アメリカでの仕事はどう?」

DAC 会場にてDAC 会場にて

先日、San Francisco で行われた DAC の会場で日本ケイデンス時代の同僚にばったり遭遇しました。彼は日本で仕事をしているものの、組織上は US 所属で外国人のマネージャーを持っているので、日本とアメリカの働き方の違いについて共感する部分が多々あり、話が大いに盛り上がりました。

私は渡米してかれこれ2年になりますが、それ以前に日本以外の国に住んだことがなく、日本人的感覚や習慣をそのまま持ってこちらに来ました。英語も、日本の中では話せるほうだったと思いますが、中途半端なレベルであることには間違いありません。ですので当然ではありますが、生活面だけでなく、仕事面においてもいまだにカルチャーギャップと失敗の連続です。アメリカに来る前に、在米経験のある先輩から「アメリカで働くということは高地で手足に重りをつけて走りこむようなもの」と言われたのを、「まさにその通り!」と日々実感しながら過ごしています。

これまでに、日本と働き方や環境が異なり戸惑ったことは数え切れないほどありますが、今回は、中でも特にギャップを感じたものを3つだけピックアップしてお話したいと思います。

Job Security の概念

シリコンバレーで働く上で何が大変かって、それはもう挙げ連ねたらキリがないのですが、一番は Job Security=雇用保障に対する感覚の違い、だと思います。仕事をする上でどう考え、どう動くか、が全てそこに関わってくると言っても過言ではありません。

みなさんも耳にされたことがあるかもしれませんが、シリコンバレーではレイオフが普通にあります。これは特定の会社がブラックというわけではなく、どの会社でも起こり得ることです。景気が悪ければ当然起きますが、景気が悪くなくても起きます。もちろん個人のパフォーマンスや上司との関係性が起因のケースも一部あるでしょうが、部署やポジションのクローズといった、自分ではコントロールしようのない理由によるものも非常に多いです。

ざっくり言うと、こちらでは人を育てると言う感覚があまりありません。たとえば、組織変更で今までとは少し違う、新しい役割A を遂行するグループを作ったとしましょう。日本であれば今までいた人材を教育して A ができるようにしますよね。もしくは、元のメンバーに適した異動先を考えます。こちらでは、元のメンバーをとりあえずレイオフして、A ができる人たちを新たに雇用する、という考え方なのです。

シリコンバレーではそういったことが日常茶飯事なので、是非は別にして、もはや「そういうもの」として冷静に受け止め、自分を守るために戦略的に動くエンジニアが多いように思います。多くの人がキャリアパスのプランを明確に持っていますし、現在のポジションに関しても、自分にしかできないことを確立したり自分がカバーできる範囲を広げることで市場価値を高めようという意識が非常に強いです。いざと言うときに頼りになるのはコネクションなので、社内外でネットワークを広げようという動きも多く見られます。そして人は Come and Go、感傷的になっている暇もなく状況はどんどん移り変わっていきます。

自由なワーキングスタイル

渡米する前、シリコンバレーではみな就業時間に縛りが無く、自由に働いているイメージがありました。San Jose オフィスの同僚が言う「Work from Home(在宅勤務)」の響きに、漠然と憧れを抱いていた時期もありました。

実際にこちらに来てわかったこととして、まず勤務体系がフレキシブルであることは本当です。エンジニアに関していえば、個々の家庭事情や住環境に応じて、早く来て早く帰る、遅く来て遅く帰る、時には遅く来て早く帰る、いっそのこと Work from Home など、「オフィスにいる時間」という意味での就業時間の縛りはほとんどありません。

こちらに来たばかりの頃は、この自由過ぎる環境にかなり戸惑いました。ちょうどそのとき自分は San Jose オフィスにいて、上司は Irvine オフィスと地理的に離れていたため、監視の目はゼロ、その気になればサボり放題では?と思ったものです(笑)。周囲の言う Work from Home も、本当に働いてるの?と少し疑いの目で見ているくらいでした(単に私の心が汚れているだけかもしれませんが)。

でも実際は、全然違います。シリコンバレーの人たちはよく働きます。オフィスに居残りをする比率は圧倒的に少ないですが、早く帰宅して、家族と食事を取って、その後 VPN 経由で夜遅くまで仕事する人たちが大勢います。日本のエンジニアに負けず劣らず、平日の残業はもとより週末働いている人たちもたくさんいます。会社の決まりや、上司の監視がなくても、自主的に働くのです。これは単にみんなのモチベーションが高いとか勤勉であるということの他に、Job Security への危機感が常に頭のどこかにあるからだと思います。予定通りに仕事を終わらせなかったら、成果を目に見える形で出せなかったら、それらはじわじわと Job Security に響いてきます。自由なワーキングスタイルと Job Security は表裏一体なところがあります。

伝えることの重要性

こちらで働いて一番苦労した(している)ことは、上司に自分の仕事をどうアピールするか、ということです。先に少し触れましたが、最初の上司は違うオフィスに在籍していたので、自分が何をやっていると思われているのか非常に不安でした。普段顔を合わせることのないインド人の上司と、英語の壁はもちろんですが、気軽に話ができるような共通のネタなど思いつくわけがなく(笑)、コミュニケーションの下地無しにいきなり電話して「私これやってます」って言ってもなぁ・・・と散々悩んだことを覚えています。

日本にいるときは、上司が近くに座っていて、残業度合いや醸し出すピリピリ感(!)などから、私がどれくらいハマっているかは言葉にせずともある程度理解されていたと思います。阿吽の呼吸というのか、日本の「慮る」文化に甘んじて、なんとなく言わなくても伝わるだろう、わかってくれるだろうという意識のもとに仕事をしていました。むしろやったことのアピールというと何となくいやらしいというか点数稼ぎをするようなイメージがあり、そんなことをしなくても一生懸命仕事をしていれば神様がどこかで見ていてくれる、といった半ば神頼み(?)的な気持ちがありました。

でもこちらでは、自分がどういう仕事をしていてどういう問題にぶつかっているのか、達成できたことは何なのかをきちんと上司に伝える必要があります。上司が毎日声掛けしてくれたりはしないので、どうアプローチしたらうまく伝わるのかを自分で考えて自分で実践するしかありません。理解するのは上司の役目ですが、それ以上に、理解してもらえるように持っていくのは自分の役目です。嘘をついたり誇張したりする必要はないですが、自分の成果を正しく伝えるスキルは必要です。そういう意味でのアピールは、決して悪いことではありません。

シリコンバレーには自己プレゼンテーション能力の高い人がたくさんいるので、適切に主張をしていかないと淘汰されます。やったことはやったと言わなければいけないし、下手な遠慮や謙遜はむしろネガティブに受け取られかねません。「沈黙は金、雄弁は銀」という諺がありますが、どちらかというとここでは逆のことが求められます。私はもちろん今でも「神様はどこかで見ていてくれる」派ではありますが、それをバックアップする自分のスキルも必要なのです。

☆ ☆ ☆

少々取り留めの無い話になってしまいましたが、日本の場合と大きく違うと思った点を、経験談を交えていくつかお話させていただきました。

日本人としては日本人的良さは失いたくないですし、かといって日本にいた頃と同じアプローチでは通用しない部分もあり、いかにバランスを取るかが非常に悩ましいところでもあります。でもできることなら良いとこ取りをしたい、OR ではなく AND にしたいと思い、次々と降って沸いてくる出来事に一喜一憂しながら、ベストな方法を模索しているところです。

私はまだ在米年数も浅く、恐らくこれから先もたくさんの経験談(≒失敗談)が生まれると思うので、機会があればまたどこかで続きをお話できたらと思います。

米国ケイデンス・デザイン・システムズ社
榎戸 芽久

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