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The Sound of Cadence
Volume 32, May 2020
AWRの買収、AWR製品の紹介と新バージョンリリース
AWRの買収に関して
ケイデンス・デザイン・システムズ社(本社:米国カリフォルニア州サンノゼ市、以下、ケイデンス)は、1月15日(米国現地時間) 、National Instruments傘下のAWR Corporation (以下AWR)の買収が完了したことを発表しました。買収の背景には、ますます複雑化するお客様の設計、より大きな設計単位での解析や検証の必要性がありました。弊社のCustom ICs および PCBs 分野におけるR&DのVPであるGlen Clarkは、Microwave Journalの取材で下記のように答えています。
『今までもケイデンスは半導体のRF設計に関して大変競争力のあるソリューションを提供してきましたが、III-V族化合物半導体やマイクロ波/ミリ波のRF設計に向けた対応については必ずしも十分ではありませんでした。今まではAWRとケイデンスのプラットフォーム間でデータをインターフェースする程度の統合で凌いできま したが、最近お客様の要求が変わってきました。これまでAWRのツールAXIEMをケイデンスのVirtuosoに密に統合するために両社は協業してきましたが、同様にAWRの他の解析テクノロジについてもケイデンスの環境に統合していくことが、我々にとってもお客様にとっても大変意義のある機会を与えてくれるであろう、ということに合意し、今回の合併に至りました。今回one teamとして働けることを大変うれしく思っています。』
AWRの設計ツールは、チップ、ボード、システムあらゆるレベルでマイクロ波/ミリ波の製品を開発している技術者に向けた製品です。ケイデンスがシリコンチップ上および基板の設計に強みを持っている一方で、AWRは、RF/マイクロ波の設計に特化した解析およびモデル、特にGaAs(ガリウム・ヒ素)、GaN(窒化ガリウム)などIII-V族化合物半導体に関して大変豊富な経験を持っています。これらが統合することで、ますます複雑化し、一方で設計期間の短縮が求められるお客様の設計により大きな価値を提供していきます。
[プレスリリース]
ケイデンス、National Instruments傘下AWR Corporationの買収を完了 (2020年1月16日発表)
[Microwave Journal記事]
エグゼクティブ・インタビュー
AWR製品について
AWR設計環境は、マイクロ波/ミリ波で利用する製品を設計するエンジニア向けに開発された『高度に統合されたシステム/回路/電磁界解析技術』の統合環境です。製品は『お客様の設計を加速させること』を重視しており、ツール間のデータ移動の削減、使用感の改善、自動化には開発当初より力を入れて取り組んできました。この設計環境は、設計者が複雑な集積回路(IC)、パッケージ、およびプリント回路基板(PCB)のモデリング、解析および検証を管理し、回路動作のすべての側面に対処して、最適な性能と信頼できる結果を達成し、初回の成功を支援します。
図1:統合環境の中で各項目(回路/レイアウト/解析など)は同一のデータベースを参照
強力な設計環境を提供する基幹技術の1つが統合されたデータベースです。AWR製品では1つのデータベースですべてが管理されています。例えば回路モデルと対応するレイアウトは同一のデータベースを参照しているため『常に回路とレイアウトは同一』です。高周波の設計ではレイアウトの効果が性能に大きく影響します。このように高周波設計に重要な点を開発の当初より意識して製品の開発がされています。
近年の設計は急速に複雑化しており、様々な方法や視点での解析や検証が必要です。AWR製品の設計環境には高周波に必要な多くの解析技術が含まれています。例えば…
- 高周波回路を効率良く解析する周波数軸の線形/非線形解析(ハーモニックバランス解析とも呼ばれます)
- ミキサなど立ち上がりの時間や振る舞いの解析のための過渡解析/エンベロープ解析
- 高周波の非線形回路の安定性を効果的に検証する線形/非線形の解析技術
- レイアウトを精度良く解析/検証するための複数の解析技術(等価回路抽出/電磁界解析)
- PAA(Phased Array Antenna: フェーズドアレーアンテナ)のように回路と電磁界解析の連携が必要な解析をサポートする連携技術
AWR製品を活用することで高周波における様々な課題に取り組み、解決できます。
最近の重要なキーワードの1つに5Gがあります。AWR設計環境は多くのお客様に様々な設計で活用が進んでいます。例えば三菱電機株式会社ではミリ波の5G対応の増幅器の設計にAWR設計環境を活用した事例を紹介しています。回路と電磁界解析により、回路トポロジの最適化と困難な電力増幅器の設計目標を達成するために必要な、高速かつ高精度な結果を得ることを実現されました。
成功事例リンク:https://www.awr.com/serve/mitsubishi-electric-success-story
図2:三菱電機株式会社の設計事例内の図抜粋
5Gでは増幅器だけでなく、増幅器とアンテナ部を“適切に”設計することも重要なファクタの1つです。そのために回路と電磁界解析を組み合わせて統合的に性能を評価する必要があります。
AWR設計環境では回路解析と電磁界解析を効果的に組み合わせて性能を評価するだけでなく、最適化/歩留まりの検証をしたり、システムの一部に組み合わせてシステム要件に合うかどうか検証することもできます。
図3:システムのイメージ
近年はIC/パッケージ/基板のような設計の階層化もますます進んでいます。従来の高周波設計では比較的小さな単位(増幅器やフィルタ)で設計が行われてきましたが、パッケージや基板に複数のICや多くの受動部品が実装され、それらを全体で最適化するような取り組みも増えてきています。そのような要求に答えるために最適化の分散や高速化、レイアウト機能の拡張、設計のリビジョン管理などの設計を支援するための多くの機能を開発し製品に実装しています。
AWR製品 V15のリリースに関して
5月4日にAWR製品はバージョンV15をリリースいたしました。V15のリリースの大きなテーマは『設計をよりスマートに』という事です。設計をより効率的に行うことをサポートするための多くの機能が追加されました。
V15の詳細のリンク:https://www.awr.com/whatsnew
図4:V15リリースの概要
V15の注目の機能をいくつか紹介します。
[通信システム解析関連]
通信システム解析の分野では5Gの規格に準拠したライブラリが更新および追加がされました。
また、基地局での重要な技術の1つであるDPD(Digital Pre-Distortion、デジタル歪補償)に関しても新しいモデルが用意され、これまで以上にシステムの検証が可能になります。
図5:システムシミュレータ(VSS)の改善
[複数技術が組み合わされた設計のための機能改善]
お客様からもフィードバックを頂き、今後期待される技術を整理し、回路図ごとの単位設定、設計管理、解析の並列化、新しい最適化エンジンなど多くの機能を実装しました。
今後Cadence社製品との連携が進み、ツール間の設計の共有が進むことで、より精度が高い設計を少ない負担で実行できることが期待されています。
図6:複合技術が搭載されたモジュールのイメージ
[電磁界解析の機能改善]
この分野でも多くの改善がありました。開境界のモーメント法を利用する電磁界解析エンジンAXIEMではDC用に新しくソルバを用意しました。また構造のメッシングが改善されました。弊社のベンチマークによれば、従来解析ができなかった構造を解くことができるようになり、解析時間も約20-30%削減できました。一方、有限要素法を利用する電磁界解析エンジンAnalystでは、Linux上で効率的に計算を実行できるようになり、解析可能な規模が改善すると共に、3Dレイアウトの機能が改善され、使用感が大きく改善しました。
またアンテナのピークとなる点での結果を返すことができるようになりました。これはアンテナの性能を効率的に検証/最適化する助けになります。5Gやレーダーのような製品のフロントエンドの開発には重要な更新です。
図7:V15で実現された機能イメージ抜粋
各製品の詳細については下記のリンクを参照ください。
[製品全般]
ブローシャ
製品カタログ
[通信システム解析環境]
Visual System Simulator
[統合設計環境]
Microwave Office
[電磁界解析エンジン]
AXIEM(モーメント法)
Analyst(有限要素法)
インテリジェント システム デザイン
テクニカルリーダー
菅原 努
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